昭和55年春から来春まで、36年の長きにわたりお世話になりました。
着任時、文科系の大学について何も知識がなく、本当に戸感いました。学生諸君の関心を引き、かつ理解した気持ちになってもらえるような講義(主に数学と統計学)を行うことを常に心掛けてまいりました。結論のみの羅列では無味乾燥であります。理論体系の大枠をおおざっぱに述べ、できる限り枝葉は捨てて、そのうえでどの程度まで基礎となる理屈を説明するか、この点に最も腐心しました。
数学では行列の理論を用いることにより、いかなる連立一次方程式も解けることを解説します。ここで、「いかなる」 を強調します。行列が主役であり、階数と行列式は優れた脇役との立場を明確に、慣れ親しんでいる足し算、掛け算だけでこの「いかなる」を克服していることに、学生諸君が注目してくれることを講義の目標としました。
統計学は応用の学問であるといわれます。諸外国の統計学の教科書には、人口統計、平均余命、新薬の効果等に関する実例や身近な興味ある例題が豊富に収録されております。「偶然」を如何に回避して合理的な予測をするか、これが統計学に課せられた課題です。記述式統計の基礎部分を概説し、例題を数多く解くことにより、学生諸君に統計学を身近に感じてもらえるよう心掛けました。
標本を取り扱ううえで平均と分散は必須ですが、大きな標本のそれを計算するのは至難の業でありました。しかし、昨今ではコンピュータでいとも簡単に平均と分散が求まります。確率の計算で必要とする順列組み合わせもコンピュータは愚直に実際に数えあげます。またコンピュータシミュレイションで、統計学の理論の要である「大数の法則」「中心極限定理」を概ね実験体感できます。さらに正規分布を表す例の釣鐘型の優美なグラフをディスプレイに描くことはエクセルを用いることで容易な作業であります。即ち、コンピュータは現代の統計学にとって欠くべからざる道具になっております。この点を十分強調した講義をいたしました。
学生諸君の反応を参考に、毎年若干の修正を加えながら、何とか三十数年間大きな失態もなく務めを終了できそうです。
終わりに、敬愛大学の益々のご発展をお祈りいたします。