敬愛大学 校友会報 -Keiai University Press-
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敬愛大学校友会
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ESSAY

 長い教員生活の間に、忘れられぬ出来事がいくつもある。今、その中で、N君のことをたびたび思い出す。彼は寡黙だった。まじめで、ほとんど欠席は無い。しかし、ゼミで自ら発言することはずっと無かった。
 転機は突然来た。ゼミのディスカッションの中で司会がN君に発言を振った。急に振られた彼の発言内容は、最初まとまってはおらず、主旨がよく分からない。私は大概司会に任せ口出ししないのだが、この時、「ごめん、よく聞こえなかった。もう一度お願い」と気軽に言った。それに続き彼が繰り返した発言は、明瞭で、良い内容だった。私はそれをすぐ感じたままに褒めた。みんなも内容の良さにハッとしたのが、空気でわかった。
 それからである。N君はゼミのディスカッションで自ら挙手して発言し始め、ぐんぐんとリーディングメンバーになっていった。
 今、経済学部では、「問題は無く人柄も良いが、自ら前へ出ようとはしない学生」(経済学部の多くを占める)の背中を押して積極的に前に出られるようにしよう、という事が課題になっている。敬愛大学のブランドは「敬天愛人」であるが、これは、一人一人の学生を把握し寄り添って育てる意味である。4年間ゼミで育てる少人数教育という好条件の中とは言え偶然から生まれたN君の変身を、敬愛のボリューム層をかたちづくる変身前のN君タイプの学生達に寄り添って、意図的に起こさせることは出来ないか。若い彼らにはまだまだ可塑性があるのである。
 この課題の解決を後押しする当時無かったツールを、我々は味方にしている。それは今普及し始めているエデュテック(EduTech―教育へのIT利用)である。敬愛大学でも、ITを活用したe-learningシステムが稼働しており、学生の学修成果をe-learningシステムに出し、それに対し教員はコメントや応援の言葉をフィードバックする。学生同士も相互評価することが出来る。出した学生は、スマホで教員や仲間のフィードバックを見ることが出来る。ITを用いて、直接顔を合わせている時にしきれなかったコミュニケーションが出来、或いは、教員は同じだけの時間で紙の上より濃密なフィードバックと激励の言葉を返せるのだ。ITの力を借りながら、毎回のリアクションシート(授業の振り返りを書く)の分析とフィードバックを通じて学生一人一人の背中を押す試みも行われている。N君がディスカッションの中で偶然掴んだ変身の機会は、彼のケースほどドラスティックな形ではないにせよ、意図的に、もっといっぱい作り出せるようになったのである。
 しかし、ITを使い目的設定するのはあくまで人間である。ある学生の名前を出せば、多くの教員がその学生のキャラクターを知っているという少人数の良さを体現した環境、そして個々の学生に温かい目で興味を持って接している同僚たちを、私は誇りに思っている。

鈴木明男
 

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